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#1
僕はこの世界に怖い物なんてなかった。
「お前、オレが怖くないのか?」
だから、そいつが目の前に現れた時も怖くなかったんだ。
#2
悪魔と契約する上で守らないといけない事が二つある。
一つは、悪魔には嘘をついてはいけないという事。
もう一つは、悪魔が見える事を誰にも言ってはいけないという事だ。
その二つを守れば、悪魔の力が使える様になるそうだ。
「もし嘘をついたらどうなるの?」
#3
「そしたらお前は雌になる」
「え!?」
「アハハハ。冗談だ。それはオレに嘘をつけば分かるさ」
「教えてはくれないのか」
きっとろくでもない事が起きるのだろう。
僕の名前は青葉遥人(あおばはると)。高校二年生だ。
僕は今、病院に向かって歩いている。
ドン。
#4
今、僕と横断歩道でぶつかった男は仕事帰りの会社員だろう。
その男は無言で睨んできたが僕はイラッとはしなかった。
それより確かに聞こえた、男の心の声が。
「(何ボーっとしてるんだよ。カスが)」
これが僕が選んだ悪魔の力である。
#5
僕は病院に入っていった。
「母さん。今日も来ちゃったよ」
「……。(……)」
「今日さぁ、学校でテストがあったんだけど僕だけ満点だったんだ」
「……。(……)」
「凄いでしょ」
「……。(……)」
「母さん。何か言ってよ」
「……。(……)」
#6
母さんが目を覚まさなくなってもう三年が経った。
僕が中二の時、母さんは事故に遭ったのだ。
「母さん。もう帰るね」
「……。(……)」
それを頭上の悪魔は笑みを浮かべながら見ていた。
「アハハハ。だから言ったろ? 人間が思った事なら分かる様になるって」
確かに今の母さんに何かを考えるのは無理だろう。
それでも悪魔の力を使えば母さんの気持ちが分かるかも、と思ったのだ。
母さんはあの時、何が言いたかったのだろう。
僕はそれが知りたかったのだ。
#7
「やべぇ、宿題忘れた。(誰か見せてくれないかなぁ)」
今日も僕は学校に来ていた。
「すまん、遥人。数学の宿題見せてくれ。(やっぱこういう時は、遥人に頼むのが一番だよな。こいつ絶対に断らねぇし)」
「いいよ」
「恩に着る。(助かったぁ。それにしても本当に便利な奴だよな)」
人は何を考えているか分からない。
思っている事と違う事を口に出来るからだ。
でも、もし、思った事しか言えなかったらこの世界はどうなっていただろうか?
「遥人! 俺にも見して!(やば、急いで写さないと)」
もしかしたら悪魔はそんな世界を望んでいるのかもしれない。
#8
「この問題分かる人?(確か、答えは1だな)」
相変わらず、数学の先生、須藤徹(すどうとおる)の声は小さいが僕にははっきり聞こえた。
悪魔の力を得て、人の心が読めるようになったが、いい事ばかりではない。
むしろ悪い事の方が多い。
聞きたくもない人の本音も分かるし、知りたくもない情報やネタバレも聞こえる。
「(全然わかんねぇ。どうやって解くんだ?)」
「(どうか指されません様に)」
「(殺してやる……)」
「(解けたー。答えは2だ)」
ただこんだけ人が密集していると様々な心の声が飛び交っていて、誰の声かは判別出来ない。
#9
お昼はいつも学校の屋上の給水タンクの影で一人で食べる。
それは人の心が読めるようになって人が煩わしくなったからではなく、元々人と関わるのが好きじゃなかったからだ。
人生は自分の物だ。
なのに人は人の物と比べる。
容姿、環境、性格、全て。
それが煩わしいのだ。
比べたところでその人の人生が変わる訳もない。
いや、変わらないから比べたいのかもしれない。せめて……。
「今日はちゃんと持ってきただろうな?(今度はこいつに何させよう?)」
話は変わるが悪魔はリンゴの赤いのが好きらしい。
#10
「お、ちゃんと持ってきたな。(おお、本当に十万ある)」
この裏から聞こえる声は同じクラスの萩原大地(はぎわらだいち)の声かな?
「これで最後だよ。(これが母にバレたら何て言おう)」
そして、こっちは竹元洋一(たけもとよういち)の声だろう。
二人は給水タンクの真裏にいる僕に気が付いていない様だ。
「じゃあ、また来月頼むな。(これで十万かぁ。何に使おう?)」
「え、これが最後の約束だろ?(来月?)」
「今月は最後だよ。来月になったらリセットされるんだ。(こいつ馬鹿だなぁ。俺がこんなんで許すわけないのに)」
「そんな……。(もう親も誤魔化せないよ)」
「この事は誰にも言うなよ。だって俺たち友達だろ?(ずっとな)」