技術部の壺の中 — Vol. 92 [タイムシフト]

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みのむしクリップ

主に電気関係で仕事をしてきたけれど、気が付いたとき、日本の電機の会社ってほとんどなくなっていた......... そんな需要のない今を 日々生きています。

VTR時代の売り出し文句は、「タイムシフト」。
ソニーが提唱したこの言葉通り、
放送に自分の時間を合わせるのでは無く、放送の時間を自分の予定に
合わせることへの革新。
番組というコンテンツと放送が切り離せず、一体で有る場合、
個人の時間は放送の計画 = 番組に縛られる。
しかし、個人向けのVTRによって、コンテンツが時間から、
はがされると、個人の時間が戻ってくる。それと同時に、
コンテンツと言う概念が強くなる。
レンタルビデオ屋が出来て、映画も好きな時に、好きな物を
見る事が出来る。
完全にコンテンツが分離すると、放送自体がただの媒体になる。
放送がもつ、『いま、リアル』って概念すら、取り除かれてしまう。
まあ、ニュースでもその場で起こっていることではないので、完全に
インタラクティブなリアル性をもつ番組は、テレホンショッピング
ぐらい?

[VHSのテープ]
すでにVTRのテープを知らない世代がいるらしい

時間的な概念、生活における時間の支配者は、時代ごとに変わる。
かつて、仕事での電話の主導権は、電話をかけた相手が持っていた。
これに対して、受け取るか、拒否するか、の選択肢に、
「留守電機能」というタイムシフトが導入された。

次に、自分の仕事の予定に合わせて掲示板の様に使う革新として、
FAXが現れ、ネットを使ったメールが現れた。
SNSの性格も、もともと掲示板的な書き留めておく要素があったはず。
すべては、個人の時間を守るためのタイムシフト文明だった。

それが、スマホを持って移動する生活が来ると、一変する。
動きながらすぐに返事を返すという暗黙の雰囲気が高まり、
一部の人はすぐ返事をくれない・・・と怒り出すしまつ。
これに伴い、すべての物がリアルタイムに帰依する。

スマホでテレビ中継、スマホでライン、スマホでメール、
スマホで「いいね!!」。
それらすべてがリアルタイムで要求される。
速いレスポンスで、つながっている事の安心を得る。
流れ的には退化している。

タイムシフトとスマホの即レス、両者はやっている事は相反する
けれど、その出発が違う。
タイムシフトは、完全に個人的な予定で、即レスは人とのつながりを
目的にしている。
だから、「即レス」が、「タイムシフト」に取って代わることはない。

そもそも、個人の都合でタイムシフトを進めていた中には、
人と会うという行動もあったとは思う。
でも、人は、そんなリアルタイムな拘束を求めていない。
連絡が付く便利さを一部の人たちが利用し、ねじ曲げた
マイノリティーの勝利だと思う。
・・・と、書くと問題発言的要素が強まるけど、
実際、やっている人達も疲弊している。
もう、限界じゃ無いだろうか。

仕事で喜ばれるから即レスが必要ということだと、そうそう
やめられない。
ビジネスは、時間との戦いだ。というように、通信を使って相場を
先取りして大もうけ、って言うケースが上げられるけど、大抵の
ビジネスは、そんなにクリティカルではなく、客に速く回答しないと、
どうにもならないというケースは少ない。
そんな状態になってしまっている時点で、すでに半分詰んでる。
きっと納品時も急がされる。
依頼する方の準備が稚拙だと、クリティカルが発生する。

どんなことでも4時間以内に回答(勿論、受け取り後にすぐ連絡)、
という人が10年前に流行っていた。
そのビジネスの行く末がどう変化しているか知らない。
昔より儲かっているのか。それとも儲かっていないのか。
そう言う顧客対応のスピードの優位性は良く判らないのだ。

携帯電話や金融の窓口は良く人を待たせるし、病院もしかり。
スピードにより損得が変わるかどうか、見切った人達は、
結構待たせる。スターバックスカフェなんて、結構待つ。

最近のカスタマーサービスは、定型的な質問が多いと考えて、
webでの質問をFAQ型式でリストから選択させて、回答まで導く。
聞くことならはじめから書いておけば良いけれど、
必要の無い人に不要な情報提供をしないためだろう。

チャットツールを使って、交代で子守をするシステムの導入で、
仕事もタイムシフトの兆しが見える。
SNSの優位性を使った対応の良い例だ。
ネットによるオペレーションシフトを行うことで、負担を分散
できている。
数年の後には、ASAP(できるだけ早く)の被害が、自動的に改善
されると思う。

でも、「さびしんぼう」の一方的な連絡は、終わらない。
常に会話を求める彼らは、手で入力するより早く、答えをほしがる。
対応は、「つなぎっぱなし」しかない。
コミュニティーの創造と、それらの因子をつなぐマッチングの仕組み。
活動している人同士が、コンタクトを取らないと、関係ない人に
被害が波及する。

過去は、急ぐ人と、急がない人がいて、
連絡が取れなかったから、急ぐ人はあきらめていた。

ただ、それだけだった気がする。
タイムシフトが出来ない人間関係(無視できない関係)は、
通信が発達する今後も続いていく。

そのうち、お経のように脳内で他人が常に会話し出す世界が、
来るのかもしれない。
しまいには、タイムシフトとは、部屋にこもる
引きこもり行為になるかもしれない。

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