2021年のAI事情- カロリーリングの夢

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主に電気関係で仕事をしてきたけれど、気が付いたとき、日本の電機の会社ってほとんどなくなっていた......... そんな需要のない今を 日々生きています。
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久々の短編小説


その日、長野県の静かな田舎町のとある工場の敷地は、人であふれていた。
「今日は我が社にとって、記念すべき日です。」
そんな定型文から社長の挨拶は始まった。
ここ葛西製作所 社長が長年の夢だった、対話が出来るAIロボット、[葛西介護用ロボットリーリースゼロ]の発表会がしくしくと進行していた。
「社長、ガチガチだぜ。」
隣に座っている同僚が話しかけてくる。
「社長もこんなに話題になるとは、思っていなかったと思うよ。」
発表前、田舎町の地方の会社が行っている取り組みを紹介する番組があって、それで少し話が広まったのをSNSやらwebやらで、ちょっと大げさにリーク、・・・いや、宣伝しすぎだ。
動画サイトに上げたりしているうちに、お祭りのような気分の高揚感とともに、歯止めがきかなくなっていた。
その結果、大量のギャラリーを呼び込んだ。

この発表会の進行は、静かな倉庫の中で、開発のいきさつや、その昔、社長が飼っていた犬の思いをロボットに込めてつくった話し、高齢化社会の介護支援を目指そうと開発した、などという話を挟むはずだったが、人混みで全部がダメになった。
暴動が起きそうなぐらいの殺気だった物々しさのなか、静かに語るなんて出来るはずがない。すべて取りやめて、いきなりロボットを発表することにした。

「これが、今回販売、出荷することになったAI搭載、介護補助ロボット『カロリー・ゼロ』です。」
[葛西製作所介護用ロボット、リリースゼロ]の頭をとって社長が命名した。
「おおーーーー。」
会場内がざわついた。やっぱ、ネーミングがダサかったか。
「・・・でかい。」
会場の人達が発した言葉は、想像と違うものだった。
「ちょっと良いですか?」
記者の一人が手を上げた。
「これ、予想していたロボットの大きさじゃないんですけど。それに人型ではないようですし。何というか、クマ? ヒグマという感じなのですが。」
社長はゴホンと咳払いして、答えだ。まずい、緊張して舞い上がってる。
「これは犬です。犬をモチーフにしました。」
大きいというのは介護型だから、人を補助するために成人男性程度の大きさになった。いろいろつめすぎで、やたらデカくなってしまった・・・ということも否定できない。
犬は良く肩の高さが身長の代わりに表現されるが、この犬型ロボットは、70cmぐらいある。会場内のざわつきはとまらない。やや、収拾がつかなくなってきた。
収まらないざわつきに、たまらず立ち上がった。
「開発を担当した高瀬です。」
担当レベルの方が、失言は軽く見てくれるだろう。
私が社長の代わりに話し始めた。
「おっしゃるように体型は熊に近いのですが、介護のため、しっかりとした体型にしています。いま、四足歩行ですが、二足歩行も可能です。二足歩行の時は、170cmの高さになります。これは成人男性の身長と同程度です。」
スイッチを切換え二足歩行モードにした。記者の一人がまた叫んだ。
「でかっ。これ、子供が乗れるじゃ無いですか。」
もう言ってしまえ。
「子供だけじゃ無いです。ギアを強化すると大人も乗れる。だから背中に取っ手をつけてみた。」
カロリーがくるっと記者達に背中を見せると、背中には、コの字型のハンドルがついていた。
「カロリーは、AIを最新AIを搭載しているので、半自立型で行動します。」
「こんな大きなロボット、一般家庭に出荷するのは大変ではないですか?」
「重量は樹脂の外装と軽合金で75kgにしています。GPSを備えており、お年寄りの徘徊や幼児の捜索を行う事ができ、この機能を使って、自分で自走して各ご家庭に配達を行います。」
私は、倉庫内にいる係りに合図を送った。

「事前にモニターに参加していただける100名の方の住所はインプットされています。今日、ここから一斉に出荷致します。」
倉庫の奥の方から、モニター用に出荷予定のカロリーが一斉に駆けてきた。
人間は、大群がやってくると、反射的に逃げ出す動物らしい。
一人の記者が会場から慌てて立ち去ろうとしたのをみて、他の者達も一斉にあとに続いた。もう収拾がつかない。パニックだ。
記者達の人海を追いかける形で、カロリー達が工場の門から旅立っていった。

と、同時にそこら中で、車がぶつかる音が聞こえた。
カロリーに驚いた人達が急停車して、追突事故が発生しているようだった。
初日は華々しい一日だった。

[イメージはこれ]

移動の様子は、それぞれが送ってくるGPSのデータで把握している。
北海道組の10台は、飛行機に乗り込んだようだ。
座席シートベルトを締めた自撮り映像が送られてくる。
長野や松本では、すでに家に到着している。
勿論、製品モニターの実施説明もカロリーが自分で行う。
その日の午後、製品オペレーターから連絡があった。
「35号機、子供が大泣きして、家に入れてもらえないそうです。」
まあ、そういうこともある。
「今回はモニターだから、帰ると説明して帰ってこい。と伝えて。」
カロリーは自立式AIなので作業の方向性を与えると、自分で解決して行動する。
その日の夜、35号機は工場に戻ってきた。
その背中は、見た目、元気が無かった。

数日の内に、一番遠い北海道の土地で、クマに遭遇した63号をのぞいて、無事にモニターの家に届けられた。
「それで、63号の代わりは、どうした。」
「戻ってきた35号にいってもらいました。ちょっと、元気は無かったですけど。」
「ヤツ、戻ってから元気なかったな。」
ロボットなのに変な話だ。顔の表情があるわけでも無いのに、仕草で感情が伝わる。

日が経つにつれて、全国でコミュニケーションがとれるロボットとして話題に上がるようになった。長野の町工場が作った、自立型ロボットと、県下は勿論、日本中から問い合わせが相次いだ。

特に話題に上がったのは、AIの学習機能とロジックだ。
カロリー達は実に良く人間社会になじんだ。
お世話になっている家の手伝いから、話し相手まで。
カロリー達が持っているネットワーク、カロリー・リンクを使って、カロリーコミュニティーを構成し、彼ら自身が、どのように人と対応すべきかを学習している。
その学習情報を元に、直接カロリーAIがユーザーに対して答えることができる。
最近では、カロリーコミュニティーで、カロリー同士の武勇伝がアップされているらしい。あんまり盛り上がりすぎで、北海道に行った72号がクマと遭遇して戦ってしまった。
「高瀬さん、72号が壊れて動けないようです。」
「なんだ、故障か??」
「いえ、なんかクマと戦ったらしく、『クマ撃退、ナウ!!』って、SNSでつぶやいています。」
「まじか。」
72号の修理は、近くにいる35号の派遣先に部品を送って、35号に修理にいってもらった。
その間、72号は、『山で一人キャンプ、ナウ!!』とか、配信しまくっていたらしい。
72号のつぶやきは、社会でも話題になり、72号のフォロワー数は、200万を超えていた。AIで連携して、拡散していたことも相まって、もう社会的なヒーロー扱いだ。
72号のつぶやきをとめないといけない。担当の工藤君に指示を出す。
「工藤君、72号に修理が終了したら、一端会社に帰ってくるように指示を出して。」
しばらくして工藤君が、
「高瀬さん、72号に通信しているのですが、了解の返答がありません。今も再送しているのですが、・・・あっ、回線切った。」
72号は、不通になった。
「まじか・・・。」
どうにか通信が出来ないか試行錯誤のなか、72号の修理を行った35号から、『自分が説得する』という連絡が入った。
3日後に72号が会社に戻ってきて、一連のSNS問題は収束に向かった。
一方、カロリーコミュニティーの中では、35号は『おやっさん』的な存在になっていった。
カロリーリンクはカロリーとの音声会話以外に、アプリケーションツールとして、スマホやPCを介して、音声対話機能もある。これを使って高校生が、『おやっさん』の35号に人生相談をするのが流行りだした。
答えているのは、カロリーコミュニティとつながったカロリー・リングを構成するAIなんだけど、それに地元のラジオ局が食いついた。
もう、社会の波は止まらない。
そんな感じで、カロリー・リングのAIの検証は、十分すぎるほど良い結果を出していた。
「ところで、高瀬さん。」
AIの分析データを見ながら、工藤君がつぶやいた。
「カロリーAIのアルゴリズムの元は、誰が作ったんですか?」
工藤君は続けた。
「そういえば、僕、この開発でAI開発担当って、知らないんですけど。私がオペレーターには、アサインされていますけど・・・。」
「カロリーのAIは社運をかけたプロジェクトだから、当然、社長がこのAIの開発を指揮した。」
つぶやく様に、私は工藤君に話していた。
「社長の知り合いの大学教授が脳を細分化、再構成をして、生体脳チップを再現する研究をしているのだけど、大学の開発ではうまくいかず、まずは生きた脳細胞を転用する方法を行いたかった。勿論、倫理的に許されるはずがない。生きた脳自体入手は困難だし、計画が止まっていたんだ。丁度そこに社長がAIロボットを開発しようと考えて、自身の脳を提供した。」
「ええええっ、えええええええ。マジですか。」
工藤君がただ絶句のまま硬直した。
丁度、窓から敷地内を歩く社長が見えた。
「一つ一つのカロリーが、社長の分身なんだ。」
「じゃ、社長の頭には今何が・・・。」
カロリーのAIは、全部で101体作られ、その一つは社長が使っている。
社長自身も今はAIなんだ。」
工藤君の方に向き直り、
「工藤君、社長の取り柄は何だと思う?」
私の問いに、工藤君は答えた。
「社長と言えば、協調性・・・ですか。」
「そう、それこそがAIに最も必要な要素、機械では感じる事ができないフィーリングを埋める第六の感覚。自然と察すること。それ自体は膨大な経験則の結果だとは思うけれど、基礎研究では埋まらない、AIが必要としている最後のピース(プログラム)だった。イチ、ゼロではなく、全体の調和を優先するという判断力。」
「なるほど・・・。」
物流の社員に声をかけている社長は、今日も笑っていた。

fin.

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