みのむしクリップ
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ニート株式会社の説明会は、いよいよ明日に迫る。事前にビデオ会議のアカウントが必要だから、アカウントをもらったり、zoomの準備をしたりと時間がかかる。みんな自分の生活に忙しいだろうし、多分、こんな感じで登録すると思う。
「おいら、歌手になるから。」
突然、新型コロナで早期退職したオヤジが話し出す。
「いま、夜の10時だよ。バカなこと言わずに、早く寝たら。」
母親が静かにそうたしなめる。
「いや、もう自由だからな。明日から街角ミュージシャンとして歌、歌う。」
まじか、すべてが突然すぎる。
突然すぎで、何も言えずにあっけにとられていると、母親がぶち切れた。
「あんたね。散々我慢して生活支えてきたのに、どういうつもりなの。全然自由にできるほど 余裕無いのよ。早期退職っていっても退職金はナシ、特別手当として給料一年分ぐらいのお金が入って満足しているようだけど、これじゃぁ老後は生きられないんだから。働いてもらわないと。」
今の時代、年金で生きていくなんて、理不尽すぎる。足りなすぎるだろ。
出来ない事を出来ない現実を見せられた親の世代は、ショックも大きい。
きっと、死ぬまで働かないといけない。
「いや、誰が何と言おうと、俺は自由だし、もう働かねー。」
オヤジは続ける。いい加減、しつこい。
聞く必要もないけど。
「あっそう。じゃわたしも家から出て行く。隣の春奈さんと駆け落ちするって、今日、話してたところだから。」
はい!!!!
あなたまで、何言い出すんですか。
「ずっと、チャンスがあれば、女同士仲良く暮らしていこうって、話してたんだよね。いい機会だわ。」
そう言い、立ち上がると電話をかける。
荷物入りのスーツケースはできあがっていて、マジで、いつでも旅立つ状態だったらしい。
隣のおばさんと話が付いたらしく、そのまま母親は玄関に向かった。
「かーさん。この時間に、どこへ・・・」
「えっ、今話聞いてたろ。じゃ、そういうことだから。」
あっさり、かーさんは出て行ってしまった。
「とーさん、いいのかよ。こんなことで。」
「いいも、なにもない。あいつ、昔からそういうところ、あったし。まあ、好きにさせていいんじゃねぇ。」
一瞬にして崩壊した。
そこへ妹の千佳が帰宅した。
「おまえ、高校生がこんな遅い時間にどこ行ってんだ。」
「うっせぃな・・・」
妹は反射的にむっとして返してきたけど、すぐに口元を曲げて、意地悪を言う時の顔になった。
「それよりアニキ。わっし、アニキの課長と結婚するから。」
「はっ!!」
俺の課長って、今年、確か48のじいさんだけど。
「おまっ、何バカなことを。」
千佳はへらっと、
「この間、アニキ酔っ払って、課長に家に送ってもらったっしょ。そん時になんかすっごい言ってきて。お金いっぱい持ってるから、ちょっと遊んでいるうちに、出来ちゃった。」
「マジかぁ!!!!!」
上司が弟かよ!!!
と、スマホがなる。Lineで彼女から電話だ。
「由加だけど・・・、どうしてきてくれないの・・・」
「えっ・・・」
何のことが判らない。約束してないし・・・。とにかく思い出そうと考えて無言になる。
「・・・なんで黙ってるの・・・。」
やばい、いま、向こう側で『怒』モードのスイッチが入った気がする。
「昨日、『近くにいたい』、『会いたい』って言ったのに、用事があるって断ったよね。何の用事だったの。わたし、昨日、荻窪で用事を済ませて帰る途中に、見たんだから!!!」
ああ、不幸な偶然は重なるって、本当なんだ。
「昨日、違う女と会ってた!!」
「いや、それは、違うって。」
「どう違うのよ。」
「あれは、俺のアニキだ。アニキは荻窪の・・・ちょっと変わったバーで、女の格好して働いているんだ・・・。」
「うそ。あなたがいなくなった後、わたしその店に行ったの。普通のお店で、『しおんさん』って名前だった。普通の女の人だった。なんでそう言う嘘つくの。」
「イヤだから、昔は男だったけど、今は女で生きてるから・・・もう、判った。今からそっちに行く。」
「いいよ。もう来なくて。嘘つく人なんて、最低。」
「イヤだから、今から行く。一旦、切るな・・・。」
あわてて玄関に向かう。
外は梅雨どきの細かな軽い水滴が舞っていた。
傘の内側にも入り込む雨を気にしながら、駅へとむかう。
彼女の家についてから、数時間話し合い、落ち着きだしたころには電車はとうに終電が過ぎていたし、軽く食事をして落ち着くと、何のことはない、いつもの情事モードに入っていきそのまま、明け方を迎える。
始発から何本か過ぎた電車で、家の駅まで戻ってきたのは、夏に近づく空が熱を持ち始めた頃だった。夏が近い。
いろんな事がぐるぐる回り出しても、夏になるし、朝は変わらずやってくる。
「牛丼でも食いに行くか。」
上司が弟なら・・・会社に行けないしな。
牛丼屋に向かいながら片手に持ったスマホで、ニー株の6/16日のエントリーをクリックした。