超私のりこ
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「野口英世になりなさい!」
幼い頃母は私の肩を力強く揺すってそういった。
私が野口英世の伝記を読んで感想を言った直後だった。
母は勉強をしとけばよかったといつも言う人なので
自分の脳みその仕上がりに納得がいかなかったのかもしれない。
私は「うん。」と言って
野口英世になるにはどうすばいいのか考え始めた。
野口英世はいろりで火傷して片方の手が使えなくなっていた。
その最初の場面が、のちの栄光をどこかもの哀しい
最高の美談に仕上げていたようだった。
私は、野口英世のように、自分のことは二の次にしてでも
誰かのためになる人生を選ばないとならないという
プレッシャーを感じた。
同じ頃マザーテレサの伝記も読んだ。
結局おんなじことだった。
朝起きると、いつも桃屋のごはんですよをつけた
ご飯粒を口に運んだ。
桃屋のごはんですよは味が濃くて美味しいけれど
うまくごはんとまぜこぜにするのが難しくて
上手にできないと
白いご飯に味を感じられず地獄だった。
いつもあの元気のいい字体の書かれた瓶をにらみながら
味のしないご飯を修行のように食べた。
このあと、保育園にいかなくてはならないなんて
地獄の先に地獄がまってる、そんなことって
あるんだな、と思った。
ここから全てがはじまる、そんな風になんて
思えない。私は生きることに
絶望したかったのに、それを世界は
許していない気がした。
ある朝、突然に
小学校の次に中学校があることを知らされた。
聞けば、母は、そのあとに、高校、大学、大学院があるのだと
たんたんと言う。
小学校の後は大人だと信じていた私は
社会の摂理を前に絶句した。
どうりで、上の兄弟は、昼間どこかに出かけているわけだ。
それから、ボロボロ泣けてきた。
ああ、こんな私が、野口英世に。
度のすぎる発注ミスを私は受けてしまっていた。
しかし覚えているのは、
野口英世になりなさい、と言われたとき
不思議と、自衛隊の人みたいな忠誠心があったことだ。
はい、なります、って感じだ。
野口英世にさえなればいいのだ。
そうすれば保育園になんて、学校になんていかなくて済むはず。
そのへんから私は
人生の運びを妥協する代わりに
何らかの許しをこうように生きようした。