「猫君も早く羊さんの所にくれば野良なんてしなくてすむのにね!」
鼠氏はさも愉快そうにチュチュと笑った。
その小さな体に爪を立てないですんだのは、周囲に人通りが多かったからだ。
毛を逆立てるような怒りに気づかれないよう平静を装い帰宅し、すぐにねずみからもらった贈り物をゴミ箱に突っ込んで、酷い言葉を書いた絶好メールを送った。
ねずみは憤慨と狼狽を繰返していたが馬鹿らしくなりそのままブロックした。
彼とはもう何年にもなる友人で、お互いバックボーンも種族も違うがなぜかウマが合ったのだ。
ただ違ったのは生を揺るがすような苦しみにあったとき、ネズミは何かを信じ猫は何も信じないことを選んだ。お互いの違いを尊重するという約束を今夜ねずみは破ったのだ。
「ふざけやがって自分じゃ何もできないくせに」
独りごちたがムシャクシャが治まらず、集会に顔を出し事の成り行きを話した。
「うわ~まじかお疲れ!」「ねずみまじ寒いわあ無理w」そりゃそうさと思って頷いていた
「そっか・・ねずみ君怖かったんだね、怖いことを認められないくらい生きるのが不安だったんだね」少し離れたところにいた仲間が呟いた。
その言葉を聴いたら視界が急に揺らいだ気がしてその場を駆け足で離れた。
だって約束を破られて馬鹿にされていると思ったんだ。
何で見下されなければならないのかと。
弱い生物の分際で。だからなのかだからそんな事を彼はしつこく言ってきたのか・・
自分の弱さを自覚できないほどの苦しみがどんなものか僕は知らない。
いつでも映画に誘ってくれたねずみ君。時に喧嘩もしたさ。でもその全てが自分を取り込もうとしたおかしな感情からでは無かったはずだ。
ゴミ箱を漁って捨てた贈り物の包みを開いてみた。中にはキラキラとしたお手製のブローチが入っていた。
「どうしてなの?どうしてこうなっちゃったんだよ。どうしてなんだよ!」ねずみが小さい手で作ってくれたそのブローチを握り締め猫は鳴きながら夜を明かした。
ブローチは月の光を受け優しい色をしながら瞬いていた。